うなぎのみしまや―陰徳に裏打ちされた繁盛店―

 今年の土用の丑の日は7月28日だった。夏になればスタミナ食として人気のうなぎ料理。天理市内にある「みしまや」といえば、開店前から長い行列ができる知る人ぞ知るうなぎ料理店である。広告を出している様子もないのに、口コミで人が集まる本物の人気店だ。  

 

 夏場の最盛期は毎日120キロ、420匹のうなぎをさばく。さばいては焼き、焼いてはさばき、それでも閉店時間前に店頭に「売り切れました」の札が下がる。

 国道169号線と北大路の交差点から少し南へ下りたところ、店舗前と横に設置された木製ベンチが行列を作って待つ人に優しい。暖簾をくぐると店主が迎えてくれた。若い。歳を聞くと36歳だという。

 創業は37年前。教会の次男として育った店主の父親が、会長である父に「商売をしろ」と言われて始めた。その会長も元々商売が上手く、60年ほど前はうどんや寿司、回転焼などを屋台で出していた。教会の三代会長を継いだあと、誰かに商売の道を継いでほしかったのだという。創業者は店主を息子に譲った今でも毎日店に出てうなぎをさばく。 

うなぎをさばく現社長

「みしまや」は午前11時の開店。その前にかば焼きにされたお初が3本分、それにメロンを添えて、毎日本部神殿にお供えしている。もう25、6年も続く日課だ。毎朝9時、持っていくのは創業者である店主の父。これも会長だった父親から「毎日お供えさせていただきなさい」と言われて始めたという。

 親に言われたことを素直に実行する。易しいようだが、決して楽なことではない。ましてや20年以上も毎日続けるには、相当に胆力が要る。その原動力を若い店主に聞いてみると、「やはり道に尽くした祖父の後ろ姿を見て育ったからでしょう」との答えが返ってきた。店主の祖父は会長になってからも「いい種は土に埋めねばならない」と陰徳を積むことの大切さを常に説き続けたという。

 昨年、「みしまや」は法人化して株式会社を立ち上げた。社名は「ビレッジバックス」。天理の街と地域を後ろから支えたい、という創業者の思いが詰まった名前だ。「縁の下の力持ちになれ」と言い続けた会長の教え。「今の行列の様子は、そのおかげだと思っています」控えめに店主がそういってほほ笑んだ。

 今でも、定休日である木曜日が所属教会の月次祭に重なると、その前日の水曜日、仕事を終えて一家そろって三重県にある教会を目指す。みんなで近くに前泊して、当日は朝からみんなで月次祭をつとめる。「ただ、おつとめをして墓参りをして帰るだけです」ここでも店主は控えめだ。

 決して得意顔をしない、その誠実そうな笑顔から、香ばしいうなぎの香りに負けない、教えを素直に受け継ぐ者特有の信仰の香りがした。

(お店の情報)
国道169号線と北大路交差点近く。セブンイレブン向かい。
  天理市三島町120
営業時間=11時~18時(売り切れ次第終了) 定休日=木曜日 電話=0743-62-0902

(メニュー)
鰻丼 並:1600円 上:2000円  蒲焼定食:1600円 など

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