ステキな陰暦の話 2

陰暦の何が便利なのか。陰暦で何が分かるのか、どころではない。陰暦でないと分からないことがたくさんある、というのが前回までの話。その答えとは・・・・・・

月の満ち欠けが分かる

 まず、月の満ち欠けが分かる。十五夜、すなわち旧暦15日の夜は一番明るい。1日は真っ暗。つまり夜の明るさが分かるのだ。夜道を歩けるか歩けないかが分かる。これは大きい問題だ。よろしいか。現在のように日本中が明るく電灯が灯るようになったのはたかだかこの100年ちょっと。それまでは何千年も何万年も、月が出ていなければ真っ暗闇。提灯やあんどんで手元を照らすくらいしかできない時代の方がずっと長かったのだ。

お盆はなぜ8月15日なのか、考えたことありますか?

お盆は8月15日(7月の地方もある)に行われるが、なぜ15日でなければならないのか。これは旧暦で暮らしてきた人々のことを考えないと分からない。お盆のクライマックスは夜である。先祖の御霊が迎え火を頼りに現世に帰って来て、また送り火であの世へ帰って行く。その夜に何か行事をやろうと思ったら、15日、すなわち「十五夜お月さん」の満月が出ていないと無理なのだ。櫓を組んでその上で太鼓を叩き、周りを踊って回る盆踊りなどは、月の明るさに手伝ってもらわなければ踊れっこない。

「月夜の晩ばかりではありませんぜ」

月の出ない夜。すなわち旧暦一日や二日。あるいは月末の29日、30日などは危なくて、出歩くときは注意が必要だったろう。「月夜の晩ばかりではありませんぜ」というのは、ヤクザのお決まりの脅し文句だが、意味が分からない現代人は多かろう。移動は安全な車。まれに歩いても、街中が家やお店の明かりにあふれ、街灯の下を懐中電灯を持つ人にとっては、月が出ていようとなかろうと関係ない。しかし以前は、人間はずっと「今日は何日か」を気にしながら生きてきた。陰暦が生活の安全・安心にまで影響を及ぼしていたのだ。

潮の満ち引きが分かる

さらに旧暦の良い所は、潮の満ち引きが分かるということだ。新月や満月の日は月と太陽の引力により海水が大きく動く。つまり旧暦1日や15日である。これがいわゆる「大潮」。「小潮」はその中間の日。こういう潮目が今日の日付で分かってしまう。筆者の住む熊本県有明海沿岸では昔からアサリ漁が盛んだ。大潮の日はだいたいお昼過ぎにかなり沖合まで潮が引く。反対に小潮の日はちょっとしか引かないのでアサリが生息する所には行けない。

海運に及ぼす影響

また船を使う人にとっては、大潮のときの潮流は激しいので操船に注意を要する。特に海が狭くなっている海峡を航行するときは、下手をすると激しい潮流に流されて命の危険が迫りかねない。
また、潮目を知っておかないと船を港につなぐことすらできなくなる。干潮時に干潟が出現する港には満潮時には係留できない。帰りたくても半日待たねばならない。何時ごろ帰れば船が着岸できるかは死活問題だ。その日の糧を得るために日付は大切なのだ。

生物の習性と月の関係

影響が及ぶのは人間だけではない。そもそも潮の満ち引きと生物の習性は密接な関係がある。例えば蟹やサンゴは大潮の時に産卵することが知られている。
ウミガメも大潮で産卵する。大潮の潮位の高さを利用して砂浜の奥の方までたどり着けるのだ。
また、大潮の日は海水の動きが活発なため、プランクトンが海水に多く含まれるようになる。だから魚がよく釣れる。漁師にとっては今日の日付が何より大切だった。

次回へ続く

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