天理から車で30分「ツリートップアドベンチャー」
天理駅から「天理本通り」(商店街)に入って一つ目の角を左に行くと、「モリノゲストハウス」がある。2022年9月、養徳社のユーチューブ「Youki Tube ふふさんぽ」の撮影時、経営者の伴戸忠三郎さん(48歳・ようぼく)が、同じく経営する「ボウケンノモリ」の話をされた。
ゲストハウスの入口正面には「ボウケンノモリやまぞえ」の「間伐材」から作った薪が積んである。この薪を原料にバイオマスボイラーで給湯をまかなう。
「山を守り、活かし、人の交流を生む。地域の活性化に貢献し、そして地球環境を守っていきたい」
と伴戸さんが熱く語る「森」を取材、紹介したい。
ツリートップアドベンチャーというアスレチック体験をする「森」なのだが、還暦前のおっさんでは絵にならないし、腰も痛いし……ということで、編集部の若手Kに汗をかいてもらうことにした。
11月の青天の下、天理教教会本部前を出発、名阪国道を名古屋方面へ車で30分、神野口(こうのぐち)インターを南へ降りてすぐのところに「ボウケンノモリやまぞえ」はあった。導入路を示す看板の「放置された森林を笑顔で満たすプロジェクト」という文字が目に入った。
日本の森林問題
日本は国土の66%が森林だが、外国産木材の輸入量増加や林業の採算性の低下により、国産材供給率は約3割に留まる。森があまり利用されていない、ということだ。
森林全体の40%を占める人工林(主にスギ・ヒノキ・カラマツなどの針葉樹)で放置されるものが増えると、適切な伐採がされず、――植生が荒れて生態系が崩れる・雨や台風時の土砂災害リスクが大きくなる・花粉症など健康被害が生じる――などの問題があるという。
東京ドーム3個分の広さの「森」は、伴戸さんの祖父が購入したもの。2002年に祖父が他界後に相続したが、バブルがはじけ、森の価値は1000分の1以下になり、莫大な借金も受け継ぐことになった。その森で何ができるかを考えていたとき、ヨーロッパに自然の森を活用したアスレチックパークがあることを知る。これしかない! と思ったという。
独学で道具の使い方や重機の使い方を学び、自分で森を整備して準備を進めた。本場フランスから専門家を呼んでアトラクションを設置。足掛け4年、2008年に「西日本初の森林型アドベンチャー」を開設したのだった。
スタートまでの念入りな準備
坂道を登ると、広場が見えてきた。
出迎えてくれたのは、「(株)冒険の森」運営課の竹本拡人(ひろと)さん(29歳)と佐々木政也さん(25歳)。佐々木さんが安全指導とコース案内をしてくれる。今回は、大人もドキドキ、スリルを味わえる「アドベンチャーコース」を体験する。子どもさんも安全に楽しめる、初心者向けの「チャレンジコース」もある。広場の入口左手には、今流行りの「グランピング」施設(手ぶらでキャンプを楽しめる)があり、奥には子どもが遊べる大きなトランポリンもある。
出発を前に、危険がないか服装・持ち物の確認をしてからハーネス(安全ベルト)を装着。いつもハツラツ、身体を動かすことが大好きな? 若手編集者・Kの顔が生き生きしてきた。
スタートゲート前で、ハーネスのフックの着脱の仕方を教わり、青、赤と色分けされたフックをワイヤーに着脱させることで、どのようにして木から木へと安全に移動するかの実地講習を受けた。佐々木さんの説明にうなずくKは真剣そのもの。カメラマンのYさんも講習を受けていざ、本番です!
ゲートをくぐると、眼下に深く広い谷が広がった。自然の地形に合わせ、樹木を生かして配置された、地上から10メートル以上の高さで木と木をつなぐ、いろいろな仕掛けが目に入る。その上をワイヤーが走る。
体験を開始したKは、佐々木さんに見守られながら、慎重に最初の地点へと梯子を上っていく。運営課の竹本さんに、なぜ、この仕事に就いたのか尋ねた。
「就職の合同説明会で、社長の熱のこもった説明を聞いて、身体を動かすことも好きだし、接客のアルバイトをしていたので、向いているかな、と思ったからです」
この日は平日だったからお客様はいなかったが、休日を中心に、年間1万2、3千人が訪れる。名阪国道沿いで便が良いからか、大阪から来るファミリー層が多い、ということだ。
「(株)冒険の森」では現在、フランチャイズも入れて12カ所(うち5カ所は室内施設。石川・岐阜・奈良・大阪・岡山・福岡)を運営している。
休園中の冬場は、新しくできる施設の建築の手伝いに行ったり、間伐をしたり、プラットホーム(樹上に取り付けた待機場所)に使う木を切ったり、コースの安全確認、メンテナンスなど。そして、新しいアトラクションを創って徐々に増やしてきた、ということだ。
「お客様に安全に楽しんでいただいて、リピートしていただけるようにと思ってやっています。『また来たよ』と言われると、モチベーション上がりますね」
佐々木さんの表情に、仕事へのやりがいを感じた。
自然の中で味わうスリル・森が目指す4つの笑顔
「キャーッ」「エーッ」「行けるかなー」
最初はおそるおそる空中でゆれる横木に足をかけていたKが、だんだんと軽快な動きに変わってくる。ふだんデスクでじっとパソコンに向かう仕事から解放されて、楽しんでいるようだ。
「慣れてきたころが危ないんです」
下から樹上のKを見守る佐々木さんが言う。Kから目を離さず、その様子を見て、安全に気を配っている。
「このコースはできない人も多いですよ。できない人のために、迂回ルートもあります」
全7コースの4コース目だった。樹上のプラットホームでKがしゃがみこんでしまった。前方の巨大な網へ向かって飛ぶのだが、踏ん切りがつかないのだ。「無理ならやめてもええで」と声をかけたが、「やめる」とは言わない。数分間のやり取りの末、
「よし、声をかけるから、合わせて飛べよ!」
「サン・ニ・イチ!」
Kは悲鳴を上げながら飛んだ。“こっちの方がドキドキするわ”と思いながら、よくがんばったと、拍手を送った。
最後は、140メートル、鳥のように空中を飛ぶジップラインで体験は終了した。
【養徳社編集部員K(26歳)の感想】
――天気も良く、神殿前で参拝をした時は、陽射しで暑いほどでしたが、冒険の森へ着き、車を降りると、ひんやり、スッキリした空気で、とても落ち着きました。風が吹くと、枯葉がカサカサっと音を立てているのが分かるくらい静かな場所です。
スタッフの方は基本的には下で見守るスタイルとのことで、自分のペースで、森の雰囲気をゆっくり味わいながら進んでいけることも魅力的でした。
木を大幅に改造しているわけではなく、環境に配慮していることも伺えました。誰かが動くと木の揺れを感じ、人工的な(コンクリート等)アスレチック施設では無い感覚でした。
なかなかの緊張と恐怖でしたが、慣れてくると辺りを見る余裕ができ、森の自然を感じることができました。腕を使うことが多く、足も普段は使わないような動き、力の入れ方が多く、次の日は二の腕、足の付け根が筋肉痛になりました……。
夏場が一番繁忙期と言っておられましたが、動くと暑くなるほど、身体全体を使うので、個人的には秋、または春がおすすめだなと思います。――
「冒険の森」のホームページには、「4つの笑顔」がPRされている。
――お客様の笑顔・働く人の笑顔・地域の笑顔・自然の笑顔――
使われていなかった「森」を整備し活用することで、自然を守り地域の安全を守る。そこに足を運ぶお客様と働く人の笑顔を生む。。そして、人を呼び込むことで地域の活性化にも貢献する。
「ボウケンノモリやまぞえ」には、「この世は神の体」「懐住まい」と教えられる天理教の教えのように、神様の懐である地球の自然環境を守りながら、人と人とが温かくつながり継続的に発展していくモデルが、繰り広げられている。
伴戸さんが一人から始め、「冒険の森」を創り出してきたノウハウは、カンボジアでも生かされようとしている。
【ボウケンノモリやまぞえの情報】
奈良県山辺郡山添村三ケ谷1680
★ホームページ★
https://bouken.co.jp/facility.php?id=1
【周辺の飲食店情報】(ボウケンノモリやまぞえから車で15分)
自然な暮らし commu+cafe コリコック
奈良県天理市山田町638−1
★ホームページ★
https://www.korikokku.com/%E5%BA%97%E8%88%97%E3%81%AE%E3%81%94%E6%A1%88%E5%86%85/
「ボウケンノモリやまぞえ」の取材からの帰りに、編集部のK・カメラマンのYさんとランチをいただきに寄りました。無添加・天然素材にこだわった料理は、ホッとする、やさしい味がしました。オーガニックコーヒーも美味しかったですね。地場産野菜の販売所もあり、店内には安心安全なスイーツや食料品などが売っていました。のどかな田園風景とあいまって、ゆったりとした時間が流れる空間です。
【その他、周辺情報】
神野山インターの北の方には、約60頭の羊が放牧されている「フォレストパーク神野山」という、つつじや星空・雲海も美しい施設があります。羊とふれあえる場所です。花と樹々の間を歩くのも気持ちよいですよ。
★ホームページ★
https://yamazoekanko.jp/forestpark/