本のほうから声をかけられる。
そんな経験をしたこと、ありませんか?
3月9日の昼下がりのこと。
前日、知人からある本を「いい本だよ、アマゾンで買えるヨ」とおススメをいただいて、いや、わたし持ってるヨ、と思いながら、会社デスク横のカラーボックスをまさぐった。
肝心の本は見つからず、ありゃりゃどこに行ったかな? 誰かに貸したかな? と思っていると、不意に1冊の本が目に飛び込んできた。
B5サイズの写真集だった。
『Please Don’t Forget 3.11. 東日本大震災 AREA IWAKI・NARAHA』
2011.3.11の東日本大震災、1カ月後から7年間にわたって、わたしは毎年のように宮城、岩手、福島の各地で天理教内有志が展開する復興支援活動の取材をし、月刊誌『陽気』にシリーズで写真入り記事を書いた。
あれは、大震災から丸2年目、2013年3月11日朝のことだった。
――「(地震の)三日前から、朝日の色がおかしかったんですよ。黒い緑がかった赤、というかですね……」
いわき市・湯本駅近くの「こいと」旅館、食堂でわたしに茶碗を手渡した60代半ばの女性従業員・Tさんは、「あの日」のことを話し始めた。「アクアマリンふくしま」はいわき市の小名浜港にある4階建ての水族館。そこで働いていた彼女が、3階の清掃作業中に地震が発生した。
入場客を避難誘導後、階段を下りて駐車場に出た。ゆれる地面の上を、次々と走る亀裂を避け、車を目指して走った。
同じころ、近くの海岸では、写真撮影中だったフォトジャーナリストの息子が津波に呑まれた。奇跡的に生還した息子は、翌日からカメラを手にいわき市内を歩いた。無残な姿をカメラにおさめ、被災者に取材をつづけ、写真集も出した。――
次第に口調が熱をおび、頬が紅潮したTさんの顔が甦る。大震災から丸2年の朝の出来事に、背筋がゾクゾクした感覚まで思い出した。
Tさんの息子さん、高橋智裕さんが出した写真集を、旅館の売店で購入したのだった。
東日本大震災から11年目の日を迎える。
やはり本から声をかけられたのだと思う。
あの日のことを思い出すように。
現場で出会った数多くの人たちとのご縁、得難い経験に感謝するように。
その経験を今に生かして、暮らすように、と。
#東日本大震災 #復興支援活動 #いわき市